電車のドアは「自動ドア」ではない!?

最終更新日:2016年5月23日

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ドアは自動で閉まります

電車、正確に言えば列車のドアは、何らかの動力により、人が閉めなくても発車前に閉まります。
あ、黒部渓谷鉄道や大井川鐵道井川線は例外ということで。

「人の手を借りず、動力によって閉まる」という意味では、列車のドアを「自動ドア」と言っても間違いではありません。

閑散線区や寒冷地区では、ドア付近にあるボタンを押してドアを開閉したり、ドアの取っ手をガッと握ってグッと引くと手動で開け閉めできるドアもあります。

ボタン式はともかく、手で開け閉めできるタイプのドアでも、開けっ放しにしていても発車前には勝手に閉まります。
これも「自動ドア」と言って間違いでは無いと思います。

では、何を持って「電車のドアは自動ドアではない」というのでしょうか。ご説明します。

ドアは「自動」では閉まりません

前項では「人力以外の動力を用いてドアが閉まる」ということをもって「自動ドア」と言いました。

しかし列車のドアは、建物に設置されている「自動ドア」とは決定的に異なる点がいくつかあります。

一つは、ドアの開閉は、車掌(マンワン列車では運転士)が列車の一箇所から一斉に行っているということ。

車掌は、列車が駅に到着すると、正しい停止位置に停車したことを確認して、「車掌スイッチ」というスイッチを「開」にします。
すると、車掌スイッチのある側の、すべてのドアが開きます。

JR東海313系3000番台の車掌スイッチ

ワンマン列車の場合は、運転士が車掌スイッチを扱う場合と、ワンマン運転専用のドア開閉スイッチを扱う場合があります。

発車時刻が近づくと、車掌は発車メロディーのスイッチを押したり(首都圏のJR線)、発車ベルのスイッチを押したり(名古屋地区のJR東海道線・中央線)、笛を吹いたりしてドアを閉めるぞという予告を行います。
そして、人の流れが途切れたところで車掌スイッチを「閉」にすると、すべてのドアが一斉に閉まります。

これは1両だろうが16両だろうが変わりありません。
基本的にドア開閉を担当する車掌は列車の最後部に乗っているので、ホームがカーブしていたり、編成が長くなると、すべてのドアに目が行き届かなくなります。
それでは危険なので工業用テレビカメラとモニターを設置するなどして死角を少なくする工夫はしていますが、すべてのドア操作を一箇所から、一斉に行っています。

名鉄名古屋駅はホームがS字に曲がっており、列車編成も2両から8両までとバラバラなうえ行先や列車種別によって停止位置が異なりモニタが設置できないため、独自の方法で安全確保を行っています。
ホーム先端付近には「お立ち台」という場所があり、ここにいる駅員がすべての放送と発車ベルの操作を行います。
ホームの何箇所かには駅員がおり、赤い旗を持っています。
列車の発車時刻が近づくと、お立ち台係員が発車ベルを鳴らします。
ホーム係員は、人の流れが途切れたところで赤旗を絞ってお立ち台に向かって振ります。これを「乗降終了合図」と言います。
お立ち台係員はすべてのホーム係員が乗降終了合図を行っていることを確認し、岐阜・犬山方面の列車では発車ベルを「ピロロロロ... ピロッ」と、豊橋・常滑方面の列車では「ピロロロロ... ピロッ ピロッ」と鳴らします。
車掌は「ピロッ」または「ピロッ ピロッ」を確認して車掌スイッチを「閉」にします。

「自動ドア」と決定的に異なること

そして、もうひとつ「自動ドア」と決定的に異なるのは、ドアが閉まる際に何かを挟んだとしても自動で開くことはないということ。

建物に設置されている自動ドアは、閉じかけたドアに傘やカバン差し込めば障害物センサーが検知し、ドアが開きます。
しかし、列車のドアは、閉じかけたドアに無理やり突っ込んだり、傘やカバンを差し込んだりしても、車掌がそれに気づかなければドアは閉まり続けます。
JR東日本の一部の新型車両など、ドア挟み検知で自動再開閉する車両もありますが、それは「例外」であり、日本の鉄道車両の大半は車掌の操作に反してドアが開くことはありません。

過去にこういうことをして閉じかけたドアが開いたのならば、それは車掌が危険を察知して車掌スイッチを「開」にしたからです。
車掌が気付かなければ、ドアはそのまま閉まり挟まれていたでしょう。

ドアを動かす動力源

ドアを動かす動力は、2016年現在ではリニアモータ駆動やスクリュー軸駆動などの電気を用いる方式もありますが、それらが実用になる前は圧縮空気による方式がほとんどでした。また、現在でも新製車両に空気式のドアエンジンが採用されることは珍しくありません。

空気式が主流だった理由として考えられるのが、挟まれ時の安全確保のため。
駆け込み乗車に失敗してドアに挟まれたら骨折した、ではシャレになりませんからね。

列車のドアは、人が挟まれても怪我しない手心と、走行中は人間の力では絶対に開かない強さが求められます。
この相反する要求に応えられたのが、かつては圧縮空気しかなかったのだと思われます。

リニアモータ駆動やスクリュー軸駆動は、電動でありながら挟まれに対する安全性が確保でき、閉まりきったところで錠を下ろすことで開かないことを担保しています。
これらの方式では、ドアが閉まりきる瞬間に、鴨居部から「ガチャン」と音がします。(最近は静かなものもあります)

挟まれたらどうなるのか

仮に駆け込み乗車をして、失敗して片腕をドアに挟まれて、車掌がそれに気づかなかったらどうなるでしょうか。
電車が発車して、引きずられてしまうのでしょうか。

模範解答は難しいですが、「何かを挟んだ場合は電車を発車できなくする仕組みはある。でも完全ではない。」というところでしょうか。

各ドアには、ドアが閉まりきったことを検知するセンサーが付いています。
各車両の両側面には、ドアが開いていると点灯する「車側灯」という赤色の表示灯があり、一箇所でもドアが開いていれば、その車両の車側灯が点灯します。

また、運転台には「知らせ灯」「パイロットランプ」などと呼ばれる表示灯(以下「知らせ灯」)があり、編成の全てのドアが閉まると、これが点灯します。
運転士は、列車を発車させる前に知らせ灯の点灯を確認することになっています。

補足ですが、この「ドアのセンサー」は車側灯や知らせ灯の点滅制御にのみ使われており、車掌のドア閉指令を受けて一定時間経過後もドアが閉まらない場合に自動で開くということはありません。

万が一、運転士が知らせ灯の点灯を確認せずにブレーキを緩解してマスコンノッチを投入したらどうなるでしょうか。
「電車」の場合は、知らせ灯が力行回路のインターロックとなっており、知らせ灯が点灯しない状態ではマスコンノッチを投入しても力行できません。(ブレーキは緩解します)
「気動車」もほとんどは電車同様インターロックがかかりますが、古い車両の一部は力行できてしまいます。

ただ、ドアのセンサーも万能ではありません。

ドアの先端部分は、何かを挟んだ時に相手を傷つけないよう、ゴムになっています。
ゴムなので、何かを挟むと変形し、相手の一点に圧力が集中するのを防ぎます。
が、これが仇となり、「挟んだ対象の幅」が2cm程度以下の場合は、ゴムが変形することで挟んだ対象を保護するのと引き換えにドア本体は「閉まった状態」となり、センサーは「閉」検知します。

過去に、駆け込み乗車に失敗した鉄道利用客が死亡した事故が発生しています。

1995年冬、東京発名古屋行きのこだま号に乗車中の男子高校生は、三島駅停車時にホームに降り、公衆電話で通話していた。
当時は携帯電話は一般市民には無縁のもので、列車内の公衆電話は通話料が高額だった。

通話中に発車ベルが鳴り出したため、男子高校生は通話を終了し、列車に戻ろうとした。
しかし、ドアが閉まりかけていたため、駆け込み乗車を試みたが及ばす、指先がドアに挟まれた。

新幹線のドアはトンネル耳ツン対策の気密構造のため、ドアは閉まった後、車内側から外側のドア枠に押し付けられる構造(気密装置)になっている。
挟まれた指先が「指先がドアに挟まれたが戸先ゴムがたわみセンサーが『閉』となったか」、「ドアは完全に閉まったが指先がドアとドア枠の間に挟まり、気密装置で挟まれたか」は定かでないが、本人の力ではドアから指が引き抜けない状態になった。

運転士は知らせ灯が点灯したため、マスコンノッチを投入。列車は発車した。
ホーム係員は、新幹線と並走する高校生の姿を認めたが、見送りでふざけているのだろうと思い、列車を停止させる措置を採らなかった。また、高校生の姿はその後すぐにホームの利用客に紛れ視認できなくなった。

高校生は新幹線と並走せざるをえない状態となったが、新幹線の速度が高校生の速力を上回った時点で高校生は「新幹線に引きずられる」状態となった。
最終的に男子高校生はホーム先端を通過したところで、指は引き抜けたか引きちぎられたかして線路に転落した。

ホーム係員は利用客より「新幹線に引きずられる人を見た」と通報を受け、ホーム先端から男子高校生を発見したが、男子高校生は死亡した。

男子高校生がホームから線路に投げ落とされる時点での列車速度について詳しく述べている文献はありませんが、0系の起動加速度を1.2km/h/s、6号車東京方乗車口からホーム先端までの距離を145m、ATC制限速度70km/hとすると、約35km/hとなります。

東海道新幹線では、この事故以後、列車発車時の列車接近に関しては神経質になっています。
ホームで「離れてください」と怒鳴る駅員の声を聞いたことがある方もあると思いますが、背景には苦い経験があるのです。

何年か前に、とある鉄道会社の車掌が「駆け込み乗車をすると死ぬこともあるのでおやめください。」と放送し、SNSなどで騒ぎになったことがあります。
しかし、実際に駆け込み乗車で死者が出ていますので、車掌は間違ったことは言っていません。

三島事故は、見送りと誤認した駅員や、中間車掌室で安全確認する義務があったにもかかわらず軽微な車両故障対応を行っていた車掌(東海道新幹線は車掌が複数人乗務している)といった鉄道側の過失もありますが、そもそも駆け込み乗車をしなければ発生しなかった事故です。

駆け込み乗車は、おやめください。