乗車券をぶった切って買うな

最終更新日:2025年3月31日

乗車券をぶった切って買うな

乗車券を「ぶった切る」とは?

列車に乗って移動する場合は、乗車前に移動の対価として運賃を支払い、契約の証である乗車券を受け取ります。
特急に乗る場合は、乗車券に加え、特急列車に乗車する区間に対して特急料金を支払い、契約の証である特急券を受け取ります。

なので、豊橋から東京まで新幹線で移動する場合は、運賃を支払った証たる乗車券と、特急料金を支払った証たる新幹線特急券を きっぷうりば や指定席自動券売機などで、運賃・料金と引き換えに受け取ります。

しかし、乗車券を「豊橋 → 東田子の浦」と「東田子の浦 → 東京(山手線内)」に分割して買うと、「豊橋 → 東京(都区内)」で買うよりも安くなります。

乗車券分割購入はWebや動画投稿サイトなどで「安く乗る裏ワザ」と称して紹介されていますが、乗車券を分割することによってリスクも生じます。

今回は乗車券を分割することによって発生するリスクについて簡単に説明します。

ぶった切って買うと安くなる理由

運賃グラフ

上はJR本州3社(東日本・東海・西日本)の幹線の運賃をグラフで表したものです。

乗車距離が短いと小刻みに運賃が上がりますが、50kmを超えたあたりからギザギザが荒くなり、100kmを超えるとさらに荒くなっています。

このグラフの範囲内では、ギザギザが荒くなっても、その頂点を結ぶと直線になり、距離と運賃は正比例しています。

東海旅客鉄道株式会社旅客営業規則(以下「旅規」)によれば、300kmまでの幹線の運賃は1kmあたり16円20銭とされています。
ただし、1kmごとに運賃を定めると煩雑になるため、3kmまでは150円、4-6kmの場合は190円、7-10kmの場合は200円、11-50kmは5kmごとに区分した運賃、51-100kmは10kmごとに区分した運賃、101-600kmは20kmごとに区分した運賃、601km以上は40kmごとに区分した運賃 と定められています。(旅規第77条の2・旅規第84条)

それを踏まえた上で、再度グラフをご覧ください。

JR本州3社幹線運賃グラフ

豊橋から東京(都区内)を通しで買うと、営業キロ293.6kmで運賃は5,170円。

豊橋から東田子の浦までは、営業キロ156.2kmで運賃は2,640円。
東田子の浦から東京(山手線内)までは、営業キロ137.4kmで運賃は2,310円。

運賃は完全な正比例ではなく、階段状に値段が高くなっていくため、乗車券のぶった切り方によっては、通しの乗車券より安くなる場合があります。

Web上には、どのように区切れば通しの乗車券より安くなるのか自動探索するサイトも存在します。
あなたが「なぜ安くなるのか」の説明を求めているのならば、そのようなサイトをご覧ください。

乗車券をぶった切ることのリスク

乗車券をぶった切って買っても、何事もなく目的地に辿り着けられるのならリスクはありません。

問題は、列車が遅れたり、運転を取りやめた時に発生します。

はじめに、「乗車券は契約の証」と書きました。
豊橋から東京(都区内)までの乗車券は、「JRは豊橋から東京までの運賃を受領しました。JRはお客さまを豊橋から東京までご案内します。」という契約書なのです。

仮に、豊橋から東京へ向かうために新幹線に乗ったとします。

列車が三島駅を発車した直後、大涌谷で大規模噴火があり、熱海駅で発車を見合わせるという放送がありました。
熱海到着後、噴火は継続しており運転再開の目処は立たない、という放送がありました。

この時点で取れる対応は、①ここで移動を中止する ②豊橋まで戻る(下り列車は運転しているものとして) ③運転再開を待つ のいずれかです。

「熱海で移動を中止」を選択した場合

①を選択した場合。乗車券は、中止駅から到着駅までの契約が遂行できないため、中止駅から到着駅までの運賃が払い戻されます。
特急券は、普通列車よりも早く目的駅に到着するという契約が遂行できないため、全額払い戻しされます。

乗車券が「豊橋→東京(都区内)」の場合、契約が遂行できないのは「熱海-東京間」です。
乗車券を「豊橋→東田子の浦」と「東田子の浦→東京(山手線内)」に分割していた場合も、契約が遂行できないのは「熱海-東京間」です。

いずれの場合も、熱海-東京間の運賃相当額と、特急料金の全額が払い戻しされます。
なので、運転再開までどのように待つかさえ解決すれば、新たな費用を支払うことなく東京まで移動を継続できます。

「豊橋まで戻る」を選択した場合

②を選んだ場合。出発駅まで戻る場合、乗車券は出発駅に戻った時点で契約が全く遂行できていないため、全額払い戻されます。
特急券も、同様の理由で全額払い戻しされます。

乗車券を「豊橋→東京(都区内)」で購入した場合は、熱海までは行っているものの、豊橋まで戻ってきているので全額払い戻しされます。
特急券も、全額払い戻しされます。

注意深く読んでいただきたいのは、ここからです。

乗車券を「豊橋→東田子の浦」「東田子の浦→東京(山手線内)」にぶった切っている場合、熱海駅に到着した時点で「豊橋→東田子の浦」の乗車券は、契約の履行が完了しています。
このため、出発駅に戻ることを選択した場合、戻れるのは契約が履行できない2枚目の乗車券の出発駅である東田子の浦までとなります。

大事なことなので、2度書きます。
戻れるのは、東田子の浦までとなります。

東田子の浦は新幹線は停まらないため、新幹線を利用できるのは三島まで。
三島から東田子の浦までは東海道線を利用することになります。

では、たまたま熱海で下り新幹線があったため、飛び乗って豊橋まで戻ってきたらどうなるのか。

実際の対応がどうなるのかは分かりませんが、最も厳しい扱いは、旅客営業規則第264条でしょう。

「第264条 旅客が、次の各号の1に該当する場合は、当該旅客の乗車駅からの区間に対する普通旅客運賃と、その2倍に相当する額の増運賃とをあわせて収受する。
 (1)係員の承諾を受けず、乗車券を所持しないで乗車したとき。
(後略)」

手元に残っている「豊橋→東田子の浦」の乗車券は、契約の履行が完了しているため、ただの紙切れです。
その状態で豊橋へ戻ると、東田子の浦から豊橋までは「係員の承諾を受けず、乗車券を所持しないで乗車」したことになるため、東田子の浦から豊橋までの普通旅客運賃2,640円と、その2倍の増運賃5,280円の計7,920円を請求される可能性があります。

戻る方向の列車に飛び乗らなかったとして、熱海駅の駅員に持っているきっぷをすべて見せ「豊橋に戻りたい」と言ったら「東田子の浦から豊橋までは新たに乗車券を購入するか、のりこし精算が必要」と言われるのではないでしょうか。

「運転再開を待つ」を選択した場合

沿線火災が発生したとか飛来物が架線に引っかかったなど、待てば運転見合わせの理由が解消する事象ならば「待つ」ことも選択肢に入るでしょう。

しかし、火山噴火で火山活動が沈静化する時期が見通せないとか、大規模巨大地震で全線を徒歩点検しなければならないとか、いつ運転再開できるのか見通しすら立たない場合もあります。

一晩であればいわゆる「列車ホテル」などの対応がされる可能性はありますが、最終的には「移動を中止する」か「出発駅まで戻る」の選択を迫られることになるでしょう。

まとめ

①乗車券をぶった切ることにより、運賃が安くなることもある。
②乗車券をぶった切ることにより、輸送障害発生時に新たな費用が発生することがある。

単に「安くなるから」と乗車券をぶった切ると、何かが起こった時に不利益を被るリスクがある ということを念頭に置いて乗車券をぶった切りましょう。

旅規によれば、乗車区間の営業キロまたは運賃計算キロが300kmを超えると、その超えた部分はキロ単価が安くなります。(旅規第77条第1項第1号)
私が旅行に行くときは大抵営業キロまたは運賃計算キロが300kmを超えるので、乗車券をぶった切ったことはありません。