最終更新日:2022年11月3日
ボルスタレス台車とは「ボルスタ」が「レス」である台車、ボルスタが無い台車の事です。
では「ボルスタ」とは何か。これは枕ばりのことです。
以上から「ボルスタレス台車」とは、枕ばりの無い台車である事が分かります。
こんな説明では何もわかりませんよね。
枕ばりについては「インダイレクトマウント台車」をご覧ください。
簡単に説明すると、ボルスタレス台車とは、空気バネを使う事で構造を極限まで簡素化した台車です。
左の画像をご覧ください。これはJR東海313系の台車です。
この画像を見ていただければ、車両の重みがどのように車輪に伝わるのか、簡単に追うことができると思います。
台車の背骨は、台車枠と言う部分です。
左の画像が台車枠です。レールと平行となる方向に側ばり、そして側ばりをつなぐ2本の横ばりがあるのみです。
台車枠の説明はこれだけ。
台車枠に空気バネを載せてみましょう。左の画像のようになりました。
この時点で真横から見れば、完成のようにも思えますが、重要なものを忘れています。
それは後で説明します。
この空気バネはソフトテニスのボールを押しつぶしたような形をしています。
そしてこの空気バネは、上下方向の衝撃を吸収するだけではなく、左右方向の衝撃も吸収し、さらに台車の回転も自らが変形する事で許容しているのです。
詳しく説明します。上下方向の衝撃を吸収できるのは容易に想像できます。
潰れたゴムボールの形なので、上下方向にはバネとして働きます。
鉄道では左右方向の衝撃も吸収しなければなりません。
この空気バネは形こそ潰れたゴムボールですが、左右方向に変形した場合にも復元力を持つように特殊な構造をしているのです。
ボルスタレス以前の台車では、左右方向の衝撃を吸収するために構造が複雑になっていました。
しかし、ボルスタレス台車は空気バネに左右方向の衝撃も吸収させる事で劇的な簡素化に成功したのです。
台車の回転とは、カーブで台車が車体に対して回転する事です。
ボルスタレス台車では、空気バネは側ばりと車体に固定されています。
そのため、台車が回転すると空気バネ自身が変形するのです。
最後に忘れてはいけないのがけん引装置です。
車体の重さや衝撃吸収は空気バネに任せていますが、牽引力や制動力まで空気バネに持たせることはできません。
牽引力や制動力は、車体と台車の間にある「けん引装置」を通じて伝達しています。
2本のパイプである横ばりの中央に、けん引装置はあります。
左の画像がけん引装置です。
横ばりに出っ張りを付けて、これにリンクを取付けます。
中央の部品に穴が開いていますが、ここに車体から伸びている「中心ピン」が差し込まれます。
リンクはゴムブシュを介して取付けられていて、ある程度の左右のずれは許容するようになっています。
上下方向のずれは、リンク機構で吸収します。
前後方向にかかる牽引力や制動力は、横ばりからリンク機構を通じて中心ピンにがっちり伝えられます。
この形のリンク機構は、上から見た時に「Z」に見える事から、Zリンクと呼ばれています。
他にはリンクを1本のみとし、その一端を直接車体に結合する「一本リンク」式もあります。
また、313系の台車写真では空気バネの下と車体をつないでいる棒がありますが、これは「ヨーダンパ」と言い台車の振動を抑える部品であり、牽引力の伝達には何ら関与していません。
「台車の構造」と言えば軸箱支持方式も内包されるものかもしれませんが、これも詳しく書くとキリが無いのでここでは端折ります。
軸箱支持方式が説明できないので、ここに出てきた3DCGにはすべて輪軸を表示していません。
側ばりと横ばりが交差し、空気バネが取付けられている場所は出っ張っています。
この出っ張りは単に空気バネを支えているだけではなく、空気バネの補助空気室としてバネ定数の低減に寄与しています。
さらに、横ばりの中も補助空気室として利用しています。
こうする事で、空気バネの容積を大きくすることなくバネ定数を低減する、つまり空気バネを柔らかくする事ができます。
いかがでしたか。
ボルスタレス台車は構造が単純と言いますが、けん引装置について詳しく書かれているWebサイトはあまりありません。
私とて詳しい設計図を某所で見るまでは、牽引力の伝達方法を知りませんでした。
この説明が「ボルスタレス台車の牽引力伝達手順が分からなくて夜も眠れない」というかつての私のような方の手助けとなれば幸いです。
そんな方が自分以外にいるのかどうかはわかりませんが。
全体をより見やすい角度から眺めた図を載せて終わりとします。