会社によってここまで違う台車

台車って何ですか?

名鉄5700系の台車

鉄道車両の「台車」と言ってどの部分をさすのか、分かる方も多いとは思いますが、確認しておきます。

左の画像を見てください。名鉄が(当時の)国鉄117系に対抗して出してきたという見方もできる5700系です。まあそんな事はどうでもいいのですが、車体下の車輪が付いている部分が台車です。

車輪... これは正しい言い方ではありません。車輪とは、円盤状の部分のみを示す言葉です。一般的に「車輪」と呼ばれているものは、鉄道では「輪軸」と呼んでいます。車輪+車軸=輪軸。わかりやすいですね。

台車は車体の重量を受け、枕バネ、軸バネを介して輪軸に伝えることで車体を支えています。

また、動力車では牽引力をモーター、歯車、輪軸から軸受け、台車枠、けん引装置や心皿を経て車体に伝えています。ブレーキの場合は逆向きに、輪軸からはブレーキシュー、ブレーキ装置の順に力を伝えます。

台車は、鉄道車両にとって輪軸の次に重要な機構です。車体や乗客の重さを受け止め、加速すれば車体を引っ張り、カーブに入れば輪軸と車体をつなぎ止め、ブレーキをかければ車体を引っ張る。大変な仕事をしているのです。

会社によって異なる台車

そんな重要な台車ですが、会社によって形は大きく異なります。それは、台車に対する考え方が会社によって全く違うため。

では、実例を見てみましょう。

名鉄1000系の台車

これは、名鉄パノラマスーパー1000系の台車です。実は登場時は別の台車を履いていたのですが、一部の車両はこの形の台車に履き替えています。

画像では分かりにくいのですが、軸受けから台車中央にかけて2枚の板バネが渡されています。この板バネで、軸受けの場所を決めています。車両の重さを受けるのは、台車枠の内側に隠れているコイルバネです。台車枠のバネが入っている部分が円筒形になっているのが分かりますか。

このような軸箱支持方式を「SUミンデン式」と呼ぶそうです。JR東日本E2系新幹線電車(あさま・はやて)にも採用されていたはずです。

 

JR東海313系の台車

これはJR東海313系の台車です。JR東海発足後に製造された電車は、383系(しなの)を除いて皆これに似ているものを履いているはずです。

空気バネのボルスタレスという点は上の台車と同じですが、軸箱支持方式が違います。この台車では、中をくり抜いた円錐形のゴムを積み重ねて接着したものを軸バネとして使っています。軸箱支持もこのゴムに任せています。

こうする事で、上下方向だけでなく前後左右にも多少動く事になり、曲線でレールに与える影響も少なくなるようです。

 

豊鉄1800系の台車

古い車両になりますが、豊橋鉄道渥美線の1800系ク2800形の一部が履いている、東急車両の「パイオニア」という台車です。昭和42年製造です。

ボルスタ付きの構造ですが、軸箱周辺は上の二つ以上に簡素です。これは、軸箱にゴム板を巻いて台車枠で挟んでいます。

構造が簡素で検査分解も楽ですが、実際に乗るとごつごつした乗り心地なのが分かります。

時代でも異なる台車

さて、名鉄、JR東海、豊鉄と3つの会社の異なる台車を見ていただいた所で、今度は時代による台車の変遷も追いかけてみる事にしましょう。

JR東海313系の台車

さて、もう一度313系の台車に登場してもらいましょう。この台車は現代鉄道車両のトレンドである「ボルスタレス台車」です。ボルスタレスとは、ボルスタがレス、ボルスタが無いと言う意味です。

ボルスタレス台車の見分け方は簡単で、枕バネ(車体と台車枠の間のバネ)が車体と台車枠を直接結んでいます。左の画像を見ると、台車の中央にある空気バネの上に、直接車体が乗っているのが確認できます。

枕バネは車体と台車にそれぞれ固定されているため、カーブを曲がる時には枕バネが変形します。コイルバネでは復元力が弱いので、ボルスタレス台車には空気バネが使われます。

さて、「ボルスタレス台車は現代のトレンド」と書きましたが、冒頭では「台車の考え方は会社により違う」とも書きました。

当然、現在に至るまでボルスタレス台車を使っていない鉄道会社もあります。もっとも有名なのは、くるりの「赤い電車」に登場する京浜急行電鉄です。

京急は先頭車は必ず重量の重い制御電動車にするなど、いろいろなポリシーがあります。制御電動車にするのは、軌道回路を早く確実に成立させるためらしいです。

他にもボススタレス台車を使わない会社もありますが、理由はよくわかりません。ただ、ボルスタを排して台車の重量が軽くなると、車体も軽くしない限り車両重心が高くなるのは間違いありません。

名鉄6000系の台車

では、時代を少し遡ってオイルショック前後に作られた名鉄6000系の台車を見てみましょう。6000系と書きましたが、6800系かもしれません。名鉄は好きですがそこまで深く知らないので、区別ができません。2両だったので6500系ではないのは間違いありません。

名鉄なので、軸箱支持方式はSUミンデン式です。これは1000系と変わりありません。

ただし、ボルスタが付いています。台車中央に見える白い部分がボルスタです。

ボルスタ付きの台車は、枕バネを置く場所によってダイレクトマウント式とインダイレクトマウント式がありますが、この台車は車体とボルスタの間に枕バネがあるのでダイレクトマウント式です。

車体重量は、車体-枕バネ-ボルスタ-台車枠の順に伝わります。牽引力は、車体-車体側バリ-ホルスタアンカ-ホルスタ-中心ピン-台車枠の順に伝わります。台車の構造に付いては、別に説明する機会を設けるつもりです。

 

JR東海119系の台車

では最後に、昭和58年製の飯田線専用車、119系電車の台車を見ていきましょう。

どうですか。誰がどう見たって、これまでの台車より古くさく見えるでしょ?上の名鉄6000系より若いのですが、訳あって古い台車を履いています。

軸バネはコイルバネ、枕バネもコイルバネです。軸箱支持方式は、もっとも原始的な軸箱守(ペデスタル)式。これは軸箱を前後から挟む方法で、ちゃんと保守しないと軸箱守と軸箱の間に隙間ができて1軸蛇行動を発生し、最悪脱線します。

この台車は「揺れ枕式台車」です。枕バネの上が上揺れ枕、下が下揺れ枕です。下揺れ枕は揺れ枕つりで台車枠にぶら下がっています。

車体重量は、車体-上揺れ枕-枕バネ-下揺れ枕-揺れ枕つり-台車枠の順に伝わります。上へ行ったり下へ行ったり忙しいですが、バネを使わず左右動を吸収する素晴らしい仕組みなのです。これも機会を改め説明します。

まとめ

えー、第1回目からかなり鉄分濃いめな話になってしまいました。

ここに書いてある事が分からなくても何も心配する事はありません。正しい金額のきっぷを買って、発車標でホームを調べて、目的地に止まる列車に乗って、目的の駅で降りられれば鉄道は誰でも利用できるのですから。

ここまで偉そうに書いてきましたが、私とてここに書いてある事を全て理解したのはつい最近の事です。

こんな調子でいろいろ役に立たない知識を書いて行こうと思っています。よろしくお願いします。