乗務員の勤務体系

乗務員の勤務体系

前回は、乗務員が出勤して列車に乗るまでを簡単に説明しました。

今回は友人や親戚にしょっちゅう聞かれる「休みは直前まで分からないの?」「新年やゴールデンウィークが仕事なら、後でまとめて休みをくれるんでしょう?」といった疑問にお答えします。

おことわり

このページで書く事は、私が勤務する鉄道会社での場合について述べています。全ての鉄道会社で当てはまる事では無いと言う点を、あらかじめご承知置きください。

身内が別の会社の元車掌ですが、聞く限りではあまり大きく変わることは無いようです。

いつが仕事でいつが休みか

結論から言えば、行路順序表によります。

1回の仕事の内容は、あらかじめ「行路」と言うもので決められているという事は、前回説明した通りです。何時に出勤して、どの列車に乗って、どこで寝て... 全て行路で指定されています。

この行路があるお陰で、勤務担当者は毎日誰をどの列車に乗せてどこでメシを食わせて... と悩む必要がありません。とにかく全ての行路に、誰か乗務員を張り付けさえすれば、列車は動きます。

しかし、問題はまだあります。休みを取らせなければならないのです。誰が何日休んでいて、どの行路に乗せるかと毎日考えていたら、勤務担当者はやっぱり倒れてしまいます。

そこで、行路の順番もあらかじめ決めてあります。これが「行路順序」です。取りあえず下の表を見てください。

行路順序表

見れば言いたい事は大体分かると思います。

1行路から始まって6行路非番の翌日の休みまでのパターンが右回りのエンドレスで続きます。

乗務員側のメリットとしては、変更が無い限りいつが休みか事前に計算で割り出せる、一廻りで5-8行路程度なので大局的に見れば仕事がパターン化するなどがあります。
逆に勤務担当側のメリットは、誰がどこからスタートかさえ決めてしまえば、あとはパターンに填めるだけで勤務が出来上がってしまう事などです。

実際には行路を決められた通り消化しているだけでは休日が余るので余分に休ませなければならない、とか、忌引きや急病で欠員が出たら手配しなければならない、など、勤務担当の仕事は一向に楽になりません。

また、冒頭のよく受ける質問の「正月休みは後でまとめてくれるのか」という答えはこれでお分かりの通り、そんなものは全くありません。世間が正月だろうがゴールデンウィークだろうが、乗務員は粛々と行路順序の通りに出勤し、休みます。

行路順序に従わない乗務員

基本的には先に説明した通り、乗務員は行路順序に従って出勤します。

しかし、行路順序にはまらない仕事をする乗務員も用意されています。それが、「予備」です。

小説「鉄道員」では、乙松は妻が危篤になった知らせを受けても駅の仕事を続け、最終列車に乗って病院に向かったものの間に合いませんでした。しかし、鉄道会社が現実にそんな待遇だったらどうしようもありません。

また、年次有給休暇は働く者の権利です。年間で何日か休みたい日に休む。こんな事さえできなかったら、ストが勃発します。

そこで登場するのが「予備」の乗務員。

年休や冠婚葬祭などで、行路に穴が開く場所が事前に分かれば、そこに予備の乗務員を充てます。従って予備担当の乗務員は、月末に勤務が発表されるまでいつが休みになるのか全く分かりません。そして行路順序にはまっている乗務員が嫌な行路に対して年休を発動してくれば、それを担当するのは予備です。

急病などで突発的に要員が不足した場合にも、大抵予備で休みの乗務員が呼び出されます。

逆を突けば、予備の乗務員は自由に配置できるため、臨時列車は予備の乗務員が担当する事が多いです。予備とは嫌な仕事を回され、いつが休みか読めず、しかし珍しい列車に乗れる確率も高いリスキーな役回りなのです。

一つではない行路順序

小さな会社の場合、運転士と車掌で共通の行路順序が1つのみ、という場合もありますが、多くの列車がある場合に行路順序が1つのみでは1周が長くなってしまいます。1周が余りにも長いと行路順序を作る意味がありません。

また、特急は一定の条件を満たした乗務員しか乗せない、とか、電車と気動車が両方走っている、と言った場合も行路順序が1つでは無理です。電車と気動車は運転免許が別で互換性がないため、電車と気動車が両方走る路線で運転士の行路が1つのみの場合は、全ての運転士に両方の免許を取らせなければならなくなります。

行路が膨大な場合、特定の条件が必要な行路がある場合、などはどうするのか。答えは簡単。行路順序を増やせばいいのです。

例えば特急の例では、特急列車に乗る行路を集めた行路順序と、特急に乗らない残りの行路を集めた行路順序の2種類があれば事足ります。特急に乗らない行路がたくさんあるなら、それをさらに分割します。

同じように電車気動車混合路線でも、電車専用の行路順序、気動車専用の行路順序を作れば解決します。

おわりに

ここまでかなり駆け足で説明しましたが、理解していただけたでしょうか。

自分ではできる限り平易に説明したつもりですが、何故自分が鉄道の人間のため、至らない面もあると思います。web拍手なり掲示板なりで指摘や質問していただければ直しますので、ぜひ感想を送ってください。