乗務員の謎

乗務員の謎

鉄道は、始発から終電まで、定められたダイヤ通りに走っています。例え始発が朝5時台だろうと、終電の終点到着が深夜1時を廻ろうとも、乗務員は乗っています。正月だって鉄道は動いているし、列車には当然乗務員が乗っています。

乗務員がどういう勤務体系なのかなんて、考えた事がある方はごく少数だと思います。私とて、鉄道会社に就職するまでそんな事を考えた事はありませんでした。

乗務員の出勤とはどんなものなのか。始発列車の乗務員は始発駅までどうやってやってくるのか。考えれば考えるほどハテナが湧いてくる乗務員運用についてタネ明かしをします。

おことわり

このページで書く事は、私が勤務する鉄道会社での場合について述べています。全ての鉄道会社で当てはまる事では無いと言う点を、あらかじめご承知置きください。

ただ、他の鉄道会社に勤務経験のある身内の話を聞く限りでは、細かい点に差異はあるものの大筋は同じようです。

乗務員はどうやって出勤するのか

まずは、全ての説明のベースになるこの問題について解決しておかなくてはなりません。

駅員の場合なら、駅に出勤すればいい事は簡単に分かります。

では、乗務員はどうする? 制服を着て家を出て、担当する列車の出発時刻までにその列車に乗っていればいいのでしょうか。

列車に乗る事が仕事である乗務員にも、着替えるロッカーや点呼を受ける場所のある勤務場所が存在します。運転士ばかりいる「運転区」、車掌ばかりいる「車掌区」、両方いる「運輸区」「乗務区」などです。以後は「運輸区」で統一します。

ともあれ、乗務員は指定された日の出勤時刻までに点呼を受けられるように運輸区に出勤します。駅員は駅の中にロッカーがありますが、運輸区はほとんどの場合駅とは独立した建物です。中には最寄り駅から15分も歩かなければならないケースもあります。

運輸区に到着したら、自分のロッカーを開けて制服に着替えます。当然ながら、通勤時に制服を着用してくる事は禁止されています。着替えたら、乗務鞄を持って点呼室に向かいます。

点呼室では、身なりを整えてから「出勤点呼」を受けます。これは、自分が出勤した事を証明するとともに、健康状態を申告します。時刻表など、仕事に必要なものを受け取ります。

その後は掲示板で工事情報や通達などをチェックしたり、車掌であれば携帯端末やつり銭を借りたり、運転士であれば工事情報などを控えたりします。

列車に乗る準備ができたら、また点呼を受けます。今度は「出発点呼」と言い、どの列車に乗務するのか、臨時停車駅やのりばの変更、車両の変更が無いかなどを申告し、情報を照合します。

出発点呼が終わったら、いよいよ乗務開始です。

乗務員が乗る列車はどう決めているか

都市路線では、1日200本以上の列車が走ります。

毎日、どの列車に誰を乗せて... と考えていたら、とても持ちません。勤務を考える助役が倒れてしまいます。

そこで、乗務員は、何時に出勤した人がどの列車に乗ってどこへ行き、次はああして、どうして... というパターンを決めています。このパターンの事を「行路」と呼びます。

取りあえず、下の図を見てください。

乗務員の動き

これは乗務員の動きのダイアグラムです。例えばa運輸区の1行路は、101列車でAからCまで乗務し、交替。休憩したあと103列車を乗継ぎ、Eで折り返し106列車をAまで乗務。

c運輸区の1行路は、Cで101列車をa運輸区1行路の乗務員から乗継ぎ、折り返し104列車をCまで乗務し、a運輸区2行路の乗務員に引継いで休憩。

このように「行路」を一度決めてしまえば、後は使い回すだけです。助役は、適度に休憩が取れるように、ご飯時に休憩が取れるように、ダイヤ改正の度に頭を悩ませる訳です。

短い路線の場合、運輸区が一つという場合もありますが、長い路線では沿線にいくつも運輸区があり、運輸区ごとに持ち受け範囲を決めている事があります。

始発列車の乗務員はどうやって出勤するのか

始発列車の乗務員はどうやって出勤するのか。こんな事、鉄道会社に就職するまで考えた事もありませんでした。

始発駅の近くに住む乗務員が列車に乗るのでしょうか。街ならまだしも、その駅の近くに住んでいる運転士は一人しかいません、となればその人は年中無休で毎日始発列車に乗らなければなりません。

実際は、始発列車の乗務員は前日の夜に始発駅まで列車に乗務して、その駅で寝るのです。

なので、基本的に「朝に始発がある駅」というのは「夜に終着がある駅」になります。終列車で到着した乗務員が翌朝の始発に乗るという事です。

終着や始発が何本もある駅の場合は、先に付いた乗務員が翌朝早い列車に乗っていきます。例外はありますが...

宿泊施設が無いのに始発がある駅の場合は、別の駅に乗務員を泊めておき、翌朝回送列車で車両と乗務員を始発駅に送り込みます。

行路の実際

今度は行路の実際を見てみましょう。本物を出すわけにはいかないので、例によって仮想の行路表です。

この表は「箱ダイヤ」と呼ばれ、列車ダイヤと異なり縦軸(上から下)で時間の経過を、横軸で乗務員の動きを表します。表の上にあるアルファベットは駅名です。

行路表

この行路はa運輸区の車掌1という行路のものです。右端に出勤時刻と終了時刻が書き込まれています。この場合、拘束22時間13分ですね。車掌にしては短い。

はじめに乗るのはA駅を10時05分に発車する101列車です。C駅で別の乗務員に交替します。

今度はC駅を11時55分に発車する103列車に乗継ぎます。D駅では40分休憩できます。乗務員は行路表を見て、「C駅で弁当を買ってD駅で食べよう」という事を考えます。

そんな調子で指定された列車に乗務し、夜になります。

A駅23時35分発の233列車は最終列車です。B駅に着くと車内を回って寝ているお客さまを叩き起こし、ドアを閉めます。

乗ってきた車両はそのまま回8233列車になります。回は回送の回。B駅に宿泊施設が無いので、回送列車でE駅に向かい、D駅で寝ます。

翌朝、D駅6時03分発の60列車でA駅に戻ったら勤務終了です。

ネタ切れ

ふう。疲れてしまいました。

自信が鉄道の世界に入って、普通の人に取って何が謎に映るのか分からなくなってしまいました。ネタ切れなのでこれにて終了。