架線はひとつ、電気はどこへ?

最終更新日:2020年9月7日

電気の簡単な問題にお答えください

電池と電球

突然ですが問題です。

ここに、乾電池と豆電球があります。
電線をつないで、豆電球を光らせてください。

電池と電球の配線(解答)

簡単ですね。
豆電球から出ている2本の線を、乾電池のプラス極とマイナス極に接続すれば、豆電球が光ります。

このように、豆電球を光らせるには、電池のプラス→配線→豆電球→配線→電池のマイナスと、「電池のプラスから出て電池のマイナスへ戻るひと繋がりの結線」が成立している必要があります。

閉じていない回路は動かない

この、「電池から出て、電池へ戻ってくる。」状態が成立している状態を「回路が閉じている。」と言います。

余談ですが、AmazonでUSB-PD対応のモバイルバッテリーを物色していて、「異常時には回路をクローズする安全装置付き」という文言を見つけました。
異常時には電流を遮断しなければならないので、回路を開放する必要があります。なので電気的に正しく言うならば、先の文言は「異常時には回路をオープンする安全装置付き」となります。

開いた回路

では、図のように片方の線を取り払ったら豆電球は光るでしょうか。
光りませんよね。

経験則で光らないことはわかると思いますが、電気的に説明するなら「回路が閉じていないので点灯しない。」となります。

では、続いて問題にお答えください。

変電所と架線と電車

続いて問題です。

ここに、変電所と電車があります。
電車が動くことができるように、適当な配線をしてください。

ここまでは大抵わかる

はい。変電所のき電出力と架線をつなぎました。
ここまでは、大抵の方はわかると思います。

では、この状態で電車は動くでしょうか。

答えはNOです。
なぜなら、「回路が閉じていないから」です。

図の状態では、変電所→架線→電車まではつながっています。
しかし、電車から変電所へ戻る電気の通り道がありません。

これでは電流が流れないので、電車は動く事はおろか、エアコンを動作させることも、室内灯を点灯させることすらできません。

なんと言うことでしょう!
「実は架線は中が2つに分かれていて、電車から戻る電気も架線を通っているのでは?」
いいえ。架線は裸導線です。

では、種明かしです。

電車から変電所へ戻る電気は、レールを流れている。

種明かし

はい。変電所の帰線入力はレールに接続します。

回路か閉じる

すると、変電所→架線→電車→レール→変電所と、回路が閉じます。

これで、電車は無事に動くことができるようになりました。

レールを触ったら感電するの?

ここで、別の疑問が湧く方もいるでしょう。
「レールに電気が流れているのなら、レールに触ったら感電するのではないか?」と。

心配は無用です。

架線には、直流1,500Vという高電圧がかかっています。
新幹線は交流25,000V、交流電化の在来線(つくばエクスプレスの守谷以北や北陸本線の敦賀以北など)は交流20,000Vと、さらに電圧が高いです。

直流1,500Vは、通電時間や電流経路にもよりますが、素手で触ったらまず間違いなく死にます。
新幹線の交流25,000Vに至っては、触れなくとも近づくだけで絶縁破壊して感電します。

しかし、電車の中で仕事を終えた電気は、電圧はほぼ0Vになっています。

人間が感電するときに問題となるのは、電流と通電時間です。
冬場にセーターを脱ぐときに静電気がパチパチと痛いことがありますが、あの時の静電気の電圧は3,000V前後になることも珍しくありません。

3,000Vとなれば、直流き電方式の1,500Vを上回りますが、静電気は「パチッ」と音がし、「痛っ」となって終わりです。

これは、電流がごくわずかで、かつ通電時間もほんの一瞬だからです。

「電車の中で仕事を終えた電気の電圧はほぼ0V」と書きましたが、仮に12V程度残っていたとしましょう。
人体の電気抵抗ですが、軽くググってみたものの、千差万別の値が出てきて参考になりませんでした。
手持ちのデジタルマルチメータで、右手の人差し指の先から右足の親指の付け根の間の抵抗値を測定したところ、だいたい5MΩ(5,000,000Ω)でした。

人間は、体内に10mAの電流が流れると「耐えられないほど痛い」と感じ、100mAで「致命的な障害を起こす」とされています。
では、12Vのレールに指先で触れたらどれくらいの電流が流れるのか計算しましょう。

オームの法則を思い出してください。
V = I∙R
R = V / I
I = V / R

「電圧はVではなくEで習った」という方も見えると思います。
電気的には電位差はVで、起電力はEで表します。
今回の場面では電位差が問題となるため、Vを使いました。

オームの法則より
I = V / R
ですから、この式に数値を当てはめると
I = 12 / 5,000,000
= 0.000 002 4 [A]
= 0.002 4 [mA]
=2.4 [μA]
となります。

人間が「あ、感電してる。」と感じることのできる最小電流は1mA程度と言われているため、「レールに触っても感電しない(でも電流はほんの少し流れている)」と言えます。

雨の日にレールを舐めたら、多分感電します。

人間の電気抵抗は、条件次第で広範囲に変動します。

皮膚は、乾いている場合は抵抗が高いですが、濡れると低くなります。

風呂に入りながら、スマホを充電しながら使っていると、感電する可能性は多分にあります。
実際に、スマホを充電しながら風呂で使っていて、感電死した事象があるようです。ググるとたくさん出てきます。

電気業界では、「42ボルト」を「死にボルト」と読みます。
一般家庭のコンセントに来ている100Vよりはるかに低い電圧でも、条件次第では感電死することもあるという戒めです。

先の計算で、レールの電圧を12Vとしたのは、レールには電車から変電所へ戻る電流とは別に、列車が存在するかどうかを検出して信号機や踏切を制御するために電圧がかけられているからです。
この値が、高くて12V程度のようです。
ATACSなど軌道回路を使わない例外はありますが、まあ例外なので。

006Pと呼ばれる、四角い9Vの乾電池は、両電極を同時に舌で舐めるとピリピリ痛みを感じるそうです。
私は感電が怖いのでやった事はありませんが。

なので、雨の日に、傘も差さずカッパも着ずに、四つん這いになってレールを舐めたら、痛みを感じる程度に感電する可能性は大いにあります。

電鉄変電所の実際の画像をご覧ください

電鉄変電所の配線

これは愛知県内某所にある、電気鉄道の変電所です。
右側が変電所で、道路を挟んで左側が線路です。

変電所から架線へ送られる電流は、画像の赤い矢印の方向で架線(き電線)に送られます。

一方で、レール付近のケーブルがまとめられ、立ち上がって道路を跨いで変電所へ入っていきます。画像の黄色の矢印です。

緑囲み部分の拡大画像が下図です。

線路部分拡大

レールに5本のケーブルが接続され、変電所へと向かっています。
これだけの太さのケーブルが5本も接続されていることが、レールを流れる電流の大きさを物語っています。

まとめ

いかがでしたか。
電車を動かした電気がレールを通って帰っていたとは、思いもよらなかったと感じる方も多いと思います。
そもそも、電気は「回路が閉じていないと流れない」ということも、乾電池と電球の問題を出さなければ「あれっ?」と思うことすらなかったかもしれません。

今回は本当に「トリビア」でした。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。